goodbook出版

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三十歳を越えたあたりから、自分のためではなく、ひとのために生きたいと思い始めた。だから物書きになったのかもしれない。

はじめに

離れられなくなっちゃう
2008年度goodbook出版主催の《出版登龍門》グランプリ受賞短編ラブロマンス小説。他の作家の短編と共に2009年11月1日刊行。在庫切れにより下記よりご注文ください。
http://frankyoshida.com/literature/index.html
謎のルージュ
2011年度goodbook出版主催のグランプリ作家商業出版化イベントにてノミネート。初の長編ミステリー作品。2012年度5月11日刊行。在庫切れにより下記よりご注文ください。
http://frankyoshida.com/literature/index.html
アマゾン筆者ページ
長編社会派ミステリー小説『謎のルージュ』の上梓にともない、筆者の自己紹介やビデオレターを掲載しています。
http://www.amazon.co.jp/Frank-Yoshida/e/B005JUU7C2/ref=ntt_athr_dp_pel_1
おすすめの100冊
アマゾンのベストセラーをご紹介しています。週末のひと時、ゆったりと読書と共にお過ごしください。
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こんにちは、Frankです。

「続きはまだですか?」。立ち上げたばかりのブログに、読者からもらった最初のコメントがこれであった。

暇つぶしのつもりで書いた小説風の日記に、続きを待っている読者がいたなんて。

嬉しくなった私は、このたった一人の読者のために書き続けた。途中何度も挫折しそうになったが、その度に 「(松本)清張とは違うタッチですね」などと、作者の矜持を擽るようなコメントをもらい、創作意欲を駆り立てられた。 何を隠そう、そのブログで連載した作品が、拙作『謎のルージュ』の叩き台になっている。

商社マン、ビジネスコンサルタントとして勤めた十数年間で、私は数多くの金科玉条を得た。今から考えると この時期が、私にとって物書き人生に足を踏み入れるための培養基になったようである。

「頭で感じる人もいれば、心で考える人もいる」。何千、何万、何十万の、自分とは価値観の違う人との出会いが 私を鼓舞し、成長もさせてくれた。

“成長期の痛み”を経験した日本人の若者たちよ。何事にも怯むことなく、世界の舞台で活躍してほしい!―― そんなメッセージが、この作品で伝わればと願っている。

プロフィール

兵庫県出身。総合商社勤務の後、ビジネスコンサルタントとして独立。短編ラブロマンス小説『離れられなくなっちゃう』で、goodbook出版主催2008年度《出版登龍門》大賞受賞、2009年1月商業出版にてデビュー。長編社会派ミステリー小説『謎のルージュ』は、商業出版の2作目となる。今後、パロディー・ハードボイルド小説の創作へ、意欲を燃やす。Kindle版は こちらへ。


長編社会派ミステリー/謎のルージュ

中堅総合商社、総大物産の中南米課に勤務する若手商社マン綾野高次。
入社2年目の冬、海外出張要員として任命される。
その数日後、上司の烏課長が鹿児島への帰省途上、機上で殺害される。
綾野は先輩の目島隆夫と共に、死体安置所のある松山へ。烏が殺害された便と同便に、メキシコの日本人会の会長が搭乗していたことが判明する。
その後、神戸の自宅に戻った寛子に無言電話が数回。
警察の捜査が進まぬ中、仕事での焦りと事件解決の狭間で葛藤する綾野。
そんな綾野が癒しを求めた女性とは――。
綾野の中南米出張のXデイに、全てが空港で明かされる。

* ――プロローグ

 床に落ちたメモ用紙が、黒のパンプスの下に、忽然と消えた。
 高井尚美は、踵の痛みを訴える仕草をして、すぐさま紙片を拾い上げた。
 高層ビルの裏通りに面した、寂寞(せきばく)とした空気が漂ったファミリーレストラン。尚美はコーヒーを啜りながら、ベルベストのネイビーストライプスーツを着た男の、次の言葉を待っている。
 1979年11月6日、火曜日。
 柱時計は夜10時を指した。
「淡路島一泊は、どうだ」
 淫靡な電流が流れたのを受けて、尚美は「淡路島?」と呟き、片眉を上げた。
「今度の金曜だよ。――6時半、この裏手の駐車場の前で待っている」
 烏の重い声が、尚美の鼓膜を舐めた。宙を彷徨っていた視線が、ふっと止まる。
 男は烏譲二、32歳。私大の外国語学部のスペイン語学科を卒業後、大阪市中央区の堺筋本町にある中堅総合商社、総大物産に入社。昨年の4月、輸出部中南米課の課長職に就いた烏は、今年で入社10年目になる。背広の左襟のフラワーホールには、総大物産のイニシャル《S》を模った社章が光っている。彫りの深い顔つき、身長1メートル78センチの体躯、そしてスキのないスーツの着こなしを見れば、誰一人として、烏が国際舞台で活躍する商社マンであることを疑う者はいないだろう。
 ショートヘアの高井尚美は、烏と同じ会社の船積課に勤務している。短大の英文科を卒業後、総大物産に入社、今年で8年目になる。美人とは言えないが、時おり覗く乱杭歯が尚美の茶目っ気を演出し、男性社員の間では“話のしやすい女性”で通っている。
 総大物産の年商は85億円。従業員は70名。家電製品の輸出が売上の8割を占め、残りの2割はブラジルから輸入した建築用石材の国内販売による。輸出部は仕向地ごとに欧米課、中南米課、中近東課、アフリカ課、アジア・オセアニア課に分かれ、セクションごとに5、6名の営業スタッフがいる。海外の船積業務を担当する船積課は、輸出部・輸入部両事業部の管轄下にある。
「欧州向けのシップメント(船積み)は、もう一段落しただろう。君は5時半に退勤して、いつもの喫茶店でパフェでも食べて、時間をつぶしておいてくれ」
 烏は無造作に、右手でコーヒーカップを回し始めた。
「しょっちゅう行けば、気付かれるじゃない」
 尚美は険のある顔をした。
 烏の一方通行の性格は、いつも二人の口喧嘩の原因になっていたが、烏のこうしたきかん坊的なところが、尚美には魅力でもあった。
 尚美は、先程拾ったメモ用紙をハンカチに包み、両手でしっかりと握り締めている。
 メモ用紙には、《休暇前に手渡す》と書かれた文字が。
 不安と仄かな期待が入り混じった尚美は、10秒の沈黙を10分のように感じたのか、反応のない烏に「奥さんにバレても、知らないわよ!」と言い放った。
 肌寒く感じるファミリーレストランに、尚美の鼻にかかった声が微妙に響き渡った。
 店内の蛍光灯が、ポツポツと消えていく。
 ガムテープを貼ったウィンドウ、腑抜けたバナー、整頓されていないチェア……。時間的には「看板です」が相応しいだろうが、「廃業です」と言った方がずっと自然な感じがするレストランである。
「こんな数字、誰も読めないよ!」剣呑な表情の女店長が罵倒した。
「すみません」
 新人のバイトだろうか。まるで米搗きバッタのように頭を下げまくっている。
「女の子だったら、もっと綺麗な字が書けるでしょ、もう!」
 烏は上司の性別は気にしないが、なまなかな上司には従わない。足元にも寄り付けぬほどの光芒を放った上司でなければ尊敬はしない。
「週末の話、どうするの?」尚美の甘えた声が、烏の耳朶に触れる。
 店内が暗くなって、唯一明かりが点いている二人のテーブルが、まるで鄙(ひな)びた劇場のステージのように映る。
 あと3日で週末を迎える。ランデブーを待ちきれないのは烏ではなく、尚美の方かもしれない。
「明日は朝から、MDBへ出張だったわね」
 MDBは、東京に本社のある大手家電メーカーである。烏が課長を務める輸出部中南米課は、MDBのテレビキットを南米のコロンビア向けに、毎月のようにコンテナ単位で輸出している。明日はSKD(半製品組立て)輸出仕様の打ち合わせの日だ。
「最近は忙しいから、週末も“東京出張”ということで、女房も納得するだろう」
 日頃から悪知恵の働く烏には、週末の淡路島での、尚美との密会には大した裏工作は必要なかった。女房への言い訳なら、百でも千でも言えてしまう烏である。
「お客様、申し訳ありませんが、そろそろ閉店です」先ほどのガミガミ店員が、憮然とした表情で言った。
 烏は時計に目を落とし、頷いた。
 店員の細い背中がレジに向かう。俄、烏は何の逡巡もなく尚美の身体を強く抱き寄せ、分厚い唇を尚美の尖った口元に重ね合わせた。
 心の裡に収まっていた尚美の記憶の引き出しが、スッと開いた。

 (つづく)

短編ラブロマンス/離れられなくなっちゃう

第一章 出会い

 その朝、高井奈了は右眉がやたら痒くなって目が覚めた。
 寝ぼけ眼で天井を見ながら、ごしごし、ごしごしと何度も右眉を擦った。
 暫くして痒みはひいたが、その日は毎週二回の決められたゴミ出し曜日だったことに気付き、そそくさと浴室に飛び込んだ。
 サッと朝シャンを浴びて、仕事モードに切り替える。それから透明のゴミ袋に入れた生ゴミを持って、一階に降りた。
 降り切ったところでプーンと異臭が鼻につき、目の前の光景に、思わず腹の中で唸ってしまった。
 ――なんだ、こりゃ!
 なんと、昇降階段左手の畳三畳ほどの狭い駐輪場に、てんこ盛りの人糞が垂れてあったのだ。
 そして、その周囲には、尻を拭いたとおぼしきちり紙が、あちこちに散らばっていた。
 新聞配達ならぬ、朝一番のクソの配達? 持っていきようのない苛立ちが、高井奈の脳天を熱くしていった。
 警察にクソの落し物なんて被害届けを出したところで、所詮、笑い者になるだけだ。
 瀟洒な三階建て賃貸マンションの二階に住む高井奈は、マンションと不似合いの汚物を黙って放置するわけにもいかず、仕方なく二階にかけ上がり、バケツに水をいっぱい入れて駐輪場に戻った。
 “ジャバー!”
 勢いよく水をぶっかけ、『参った、参った……』と繰り返した。
 出勤前のクソ忙しいときの洒落にもならない糞掃除。大きな溜息が漏れた。
 そこに道路向かいのクリーニング屋の女店長が生ごみを持ってやってきた。彼女は旦那と中学二年生の娘との三人暮らしである。高井奈と彼女の共通点は、ごみの収拾場所が同じだということと、年齢も四十前後と変わりないということだった。
「知りませんよね、誰か」と訊く高井奈に、「いゃ、知りません」と答えるスッピンの店長。お互い“知り”に力を入れて発音したように聞こえたのは錯覚だろうか? 高井奈のスーツとバケツのアンバランスな出で立ちに、彼女は、もうかける言葉を失っていた。

 そんな訳で、いつもより十分遅れでマンションを出た。
 スーパーの特売で買ったママチャリに跨り、最寄りの駅まで全速力。
 主だった建物のない閑散とした住宅街だが、今の高井奈には心安らぐ街並みだ。
 カーデガン姿が急に目立ち始めたこの通勤時間、何だか秋の気配を肌で感じ取っていた。
 この町に越してきて早三年。確かに、この歳で一人暮らしも侘しいものだが、家族のごたごたから解放されたというホッとする気楽さもあった。
 駅の五十メートル手前から緩やかな上り勾配になり、そこから思いっきりペダルを踏み込む。
 ここが毎朝毎晩、高井奈が乗降しているK駅だ。
 駅の駐輪場に着いた時、大学生風の女性がひとり叫んでいた。
「どうなってんの、これ。最低――!」
 目を遣ると、彼女の自転車のバスケットに、チラシがいっぱい詰め込まれていた。
 チラシの内容を一瞥するまでもなく、彼女は紙をくしゃくしゃに丸め、その場に捨てようとした。
「これが資源の無駄遣いっていうの!」
 いつもなら完全に無視する高井奈だが、何を血迷ったのか、咄嗟に変な申し出をしてしまった。
「もしよかったら、捨てときますよ」
 この、何の変哲も無い言葉が、高井奈のこれからの人生を変えてしまうプロローグの始まりだった。
「えっ? おじさんは関係……いや、けっこうです」
 急によそゆきの声になった。
 彼女は丸めた紙くずを握り締め、慌てて改札口に向かった。
 何とも言えない心地よいα波を彼女から感じ取った高井奈は、日常のストレスが自分の身体からスーッと抜けていくのがわかった。

 (つづく)

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