『鬼火』(吉屋信子著)を読んで ★★

こんにちは、Frankです。

短編集の巻末にある、薀蓄のある書評を引用しながら、感想を述べさ
せていただきます。

1916年、少女画報に連載された『花物語』が、女学生のバイブルとい
われ、人気作家となった吉屋信子。少女小説で大作家になったが、自
らの作品が文芸評論家から黙殺され、痛憤を覚えていたとか。

この『鬼火』は、そんな背景を背負って生まれた作品なのでしょうか。

《忠七は瓦斯の集金人になるまで、復員後しばらく伯父の鼻緒の露天
商の手伝いをしたりしていた。その伯父の友達の保証でなった今の商
売の方が忠七には気に入っていた。》

忠七は、正々堂々と取るべきものは取る、馬鹿にされる商売じゃない、
と集金人としての仕事にプライドを持っていた。

物語は、ガス代を幾月も滞納している家を訪問するところから始まり
ます。その家の勝手口には、一株の丈の高い紫苑*がすがれて咲いて
いる。薄紫の花が憐れっぽく咲き残っているのです。忠七が土間に入
ると、細紐一つの女が応対する。

「・・・すみません、主人がながなが病気なもんですから・・・」

忠七は、この瓦斯代が払えぬ人妻に(女)を感じてしまう。やくざな
言葉を使い抱かせてくれたら「この瓦斯代ぐらいおれが立て替えとい
てやらあ」と強迫する。

女は「・・・ここでは、いけません、病人が奥で寝ています・・・」
と。忠七は自分の家で女を待ったが一向にやってこない。

そんなこんなで数日が過ぎ、再度、集金に行ったとき、恐ろしい光景
を目にする――。

銀行振替で相手の顔が見えなくなった昨今、人間の生き様を目の当り
にすることが少なくなった若者に、ある意味同情してしまいます。

プライドが傲慢に、悲哀が怨念に・・・仕事、女と、色々と考えさせ
られる作品です。時代背景を髣髴させる緻密な表現を堪能しました。

※紫苑(しおん)
キク科の多年草で、秋、野菊に似たうす紫色の花をつける。タイトル
の鬼火は、夜、墓地や湿地などで燃える青白い火で燐火、きつね火と
もいう。

名短篇、さらにあり (ちくま文庫)

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