長編ハードボイルド小説『愛しの標的』~立ち読み~

こんにちは、Frankです。

拙作の長編ハードボイルド小説『愛しの標的』の梗概と立ち読みを
ご紹介します。ご一読いただければ幸いです。

【梗概】
病院のベッドで仰臥する男に、中年の女性が忍び寄る。薬物投与の直
前、男は目覚め、女の計画は頓挫する。男はマレーシアでの事故以来、
15年間植物人間でいた商征。女は商が諜報活動のために利用した花武
庫待子。1週間後、待子は商に手紙と写真の入った封筒を渡し、商の
元を去っていく。手紙には《15年前、商さんは諜報員としての活動か
ら……》という文言が。読み終えた商は殺気立ち、慌てて病院を飛び出
す……そして舞台は15年前にフラッシュバック――。商社マンから諜報
員になった商が、国家の陰謀に挑む長編ハードボイルド小説。総文字
数約138,391字、Frank渾身のエンタテイメントストーリー。どうぞご
一読ください。

【立ち読み】

第1章 目覚め

 花武庫待子の右手が、微妙に震えだした。
 その手にはインスリン用の注射器が握られている。注射針の先端は
わずか〇・二ミリ、三十三ゲージ。内径・外径共ダブルテーパー構造
の、薬液注入に抵抗がない特殊針が取り付けられている。一般A病棟
の三○五号室にはベッドが四つあるが、この病室にいるのは患者の男
性一人と待子の、二人だけである。
 同じA病棟の別室で、患者が痙攣を起こしているとの緊急連絡を受
け、看護婦が数名、ナース控え室を飛び出した。視界から看護婦の姿
が消え、待子はベッドの中で仰臥したままの男を一瞥し、掛け布団を
ゆっくりと持ち上げた。青白く痩せた男の左腕が現れ、投与する部位
を見定める。
「さようなら」
 そう言ってから、待子は震える手首を制御しながら、注射器を近づ
けた。
 名残惜しむように左手で男の頬に触れ、形のいい顎に指を滑らせた。
すると、あたかも精気を与えられたように、男が弱々しく瞼を開けた。
「きみは、だれ?」
 男の声が待子の耳朶に触れた次の瞬間、注射器を持つ待子の右手が、
わしづかみされた。
 ジャンプした記憶が、待子の強固な意志を、事も無げに風化させた。
 待子は慌てて注射器をショルダーバッグに仕舞いこみ、周囲の状況
を確認してから、悲鳴をあげた。
「せ、せ、先生――!」
 待子の甲高い声が病棟全体に激しくこだました。
 緊急通報システムを使わず、真っ先にナース控え室に駆けて行く。
しどろもどろの待子を落ち着かせるように、待機していた二名の看護
婦のうちの一人が、そっと待子の肩に手を遣った。
「落ち着いて話して下さい。どうしたんですか?」
「た、た、征が、目を覚ましたんです!」
「えっ? 商さんが?」
 待子は看護婦と二人、勇み足で病室に戻り、ベッドに詰め寄った。
「商さん! 聞こえる?」
 はちきれんばかりの二の腕の看護婦が、商の耳元で叫んだ。
「征! ねえ、征!」
 待子の声が涙声に変わった。神様がいるなら助けて欲しい、そんな
願いを込めた声だった。
 商の身体がゆっくりと動き、再び瞼を薄っすらと開けた。唇が語り
かけるように微妙に動作した。
 担当医が連絡を受け、飛んできた。
「奇跡だよ、これは」

(つづく)

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