短編ラブロマンス小説『離れられなくなっちゃう』~立ち読み~

こんにちは、Frankです。

拙作の短編ラブロマンス小説『離れられなくなっちゃう』の梗概と立
ち読みをご紹介します。ご一読いただければ幸いです。

【梗概】

零細企業を経営する主人公高井奈了がある朝、出勤前に自宅マンショ
ン1階の駐輪場で運悪く“ウン”のつくものを発見する。その処理に時
間がかかってしまった高井奈は、いつもより遅く最寄り駅に到着する
ことに。すると駅の駐輪場で不貞腐れている女子大生と遭遇。どうや
ら彼女の不機嫌の原因が、自転車の買い物かごに入っていたチラシだ
とわかる。手助けのつもりで女子大生に声をかけた高井奈だったが、
その後《恋》という漢字一文字に取りつかれていく。2008年度good-
book出版主催の《出版登龍門》にてグランプリを受賞した、パロディ
ー仕込みの短編ラブロマンス。電子書籍版の総文字数は約32,252字。
Frank独特の諧謔的ストーリー展開を、どうぞご堪能ください。

【立ち読み】

  第一章 出会い

 その朝、高井奈了は右眉がやたら痒くなって目が覚めた。
 寝ぼけ眼で天井を見ながら、ごしごし、ごしごしと何度も右眉を擦
った。
 暫くして痒みはひいたが、その日は毎週二回の決められたゴミ出し
曜日だったことに気付き、そそくさと浴室に飛び込んだ。
 サッと朝シャンを浴びて、仕事モードに切り替える。それから透明
のゴミ袋に入れた生ゴミを持って、一階に降りた。
 降り切ったところでプーンと異臭が鼻につき、目の前の光景に、思
わず腹の中で唸ってしまった。
――なんだ、こりゃ!
 なんと、昇降階段左手の畳三畳ほどの狭い駐輪場に、てんこ盛りの
人糞が垂れてあったのだ。
 そして、その周囲には、尻を拭いたとおぼしきちり紙が、あちこち
に散らばっていた。
 新聞配達ならぬ、朝一番のクソの配達? 持っていきようのない苛
立ちが、高井奈の脳天を熱くしていった。
 警察に〝クソの落とし物〟なんて被害届けを出したところで、所詮、
笑い者になるだけだ。
 瀟洒な三階建て賃貸マンションの二階に住む高井奈は、マンション
と不似合いの汚物を黙って放置するわけにもいかず、仕方なく二階に
かけ上がり、バケツに水をいっぱい入れて駐輪場に戻った。
〝ジャバー!〟
 勢いよく水をぶっかけ、「参った、参った」を繰り返した。
 出勤前のクソ忙しいときの洒落にもならない糞掃除。大きな溜息が
漏れた。
 そこに道路向かいのクリーニング屋の女店長が生ごみを持ってやっ
てきた。彼女は旦那と中学二年生の娘との三人暮らしである。高井奈
と彼女の共通点は、ごみの収拾場所が同じだということと、年齢も四
十前後と変わりないということだった。
「〝知り〟ませんよね、誰か」
 と訊く高井奈に、
「いゃ、〝知り〟ません」
 と答えるスッピンの店長。
 お互い〝知り〟に力を入れて発音したように聞こえたのは錯覚だろ
うか? 高井奈のスーツとバケツのアンバランスな出で立ちに、彼女
は、もうかける言葉を失っていた。

 そんな訳で、いつもより十分遅れでマンションを出た。
 スーパーの特売で買ったママチャリに跨り、最寄りの駅まで全速力。
 主だった建物のない閑散とした住宅街だが、今の高井奈には心安ら
ぐ街並みだ。
 カーデガン姿が急に目立ち始めたこの通勤時間、何だか秋の気配を
肌で感じ取っていた。
 この町に越してきて早三年。確かにこの歳で一人暮らしも侘しいも
のだが、家族のごたごたから解放されたという、ホッとする気楽さも
あった。
 駅の五十メートル手前から緩やかな上り勾配になり、そこから思い
っきりペダルを踏み込む。
 ここが毎朝毎晩、高井奈が乗降しているK駅だ。
 駅の駐輪場に着いた時、大学生風の女性がひとり叫んでいた。
「どうなってんの、これ。最低――!」
 目を遣ると、彼女の自転車のバスケットに、チラシがいっぱい詰め
込まれていた。
 チラシの内容を一瞥するまでもなく、彼女は紙をくしゃくしゃに丸
め、その場に捨てようとした。
「これが資源の無駄遣いっていうの!」
 いつもなら完全に無視する高井奈だが、何を血迷ったのか、咄嗟に
変な申し出をしてしまった。
「もしよかったら、捨てときますよ」
 この、何の変哲も無い言葉が、高井奈のこれからの人生を変えてし
まうプロローグの始まりだった。
「えっ? おじさんは関係……いや、けっこうです」
 急によそゆきの声になった。
 彼女は丸めた紙くずを握り締め、慌てて改札口に向かった。
 何とも言えない心地よいアルファ波を彼女から感じ取った高井奈は、
日常のストレスが自分の身体からスーッと抜けていくのがわかった。

(つづく)

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